医療安全管理指針

医療安全管理指針

I.医療事故防止の基本的考え方

本院においては病院長のリーダーシップの基、全職員が病院理念である安心と信頼を得る病院を目標に医療を実施している。現代の医療においては、医療技術・医療機器の急速な進歩、医療システムの高度化等により利便性の向上が見られる反面、各システムの複雑化、経済効率の追求、臨床現場の多忙化と疲弊が進行し、容易に医療事故が発生しやすい環境も温存されている。また、患者とのコミュニケーション不足による医療技術への不信感を招いていることや、医療過誤が疑われ訴訟に発展する可能性がある事例等、種々の医療問題が発生している。
患者に質の高い医療を提供するためには、まず、医療事故はあってはならない。より安全な医療を提供する環境を整えるため、患者の安全を第一に患者と同じ視線に立った医療を心掛ける必要がある。病院職員全員が、医療事故防止の基本的な考え方として「ひとはエラーをおかす」ということを常に念頭に置き、「トラブル・ミスはゼロで当然」という医療環境を確立していくことが医療事故防止の基本的な考え方である。

II.医療事故に関する用語の説明

1.リスクマネージメント

リスクに関して意思決定をし、決定を実行に移していくこと。リスクを容認できるレベル以下に維持管理するための組織的諸活動、リスク評価はリスクマネージメントの手段であって、それ自身を目的化してはいけない。

2.医療事故

医療を行う全過程において発生する、原疾患ではなく医療行為によって生じた心身の障害
※死亡、生命の危険、病状の悪化など身体的被害のみならず、苦痛、不安など精神的被害が生じた場合も含む

3.医療過誤

医療によって患者の障害を負い、医療行為に過失があり、かつその傷害と過失に因果関係が成立するものをいう。

4.エラー

行為者自身が意図したものではない場合、規則に照らして望ましくない場合、第三者からみて望ましくない場合および客観的水準を満足しない場合などに、その行為を「エラー」という。

5.インシデントとアクシデント

ミスがあったが、患者に障害を発生させなかった場合や、実行前にミスが訂正され、事故に至らなかった場合をインシデントと呼ぶ。(ひやり・はっと、ニアミスともよぶ)
目的に反して患者に被害を生じた事象をアクシデントとよぶ。

6.医事紛争

医療行為あるいは医療関連サービスにおいて、患者(家族)より医療関係者にクレームがついた状態である。医事紛争イコール医療事故(過誤)ではなくインシデントや不十分なインフォームドコンセントでも医事紛争は起こる。

III.医療安全管理体制構築のための基本的な考え方

1.常に危機意識を持ち業務にあたる

常に「事故はいつでも起こり得る」「人は過ちをおかす」という危機意識を常に持ち、業務にあたる。医療行為は不確定要素が多く潜在し、常に危険と隣り合わせにある。医療従事者はこの危険性を十分認識し、医療事故はいつでも起こり得るものであるという「危機意識」を持って業務にあたる。

2.適正な業務量を超えた場合は管理者に報告・相談する

業務中にチームや勤務者自身の作業能力を超える業務量や業務状況になった場合は、無理や作業の省略をせず、管理者に報告する。管理者はその権限と責任において、業務配分の調整や他部署への応援などを依頼する。

3.患者本位の医療に徹する

すべての医療行為、医療システムを患者中心・患者本位のものとする。医療側の都合の良いようなシステムは作らない。患者本位の医療は医療の質を高めるとともに、医療機関の将来への発展を約束する。

4.危険な医療行為には、確認・再確認等を徹底する

危険な医療行為を行うに際して、事前に複数のもので確認すること。口頭指示は必ず復唱し。後で必ず指示書をもらうこと。また、業務遂行の過程で疑問を持ったまま医療行為を行わないこと。

ケアレスミスの原因は

  1. 当たり前のことが当たり前にできない
  2. 不確実な知識のまま対応
  3. 患者情報の確認不足
  4. 自分の行動に対する甘さ
  5. 複数人、複数回のチェック体制がない
  6. 指示の復唱などのルールがあっても守られていない

などであることを確認すること

5.コミュニケーションとインフォームドコンセントに配慮する

医事紛争の最大原因はコミュニケーション不足でありインフォームドコンセント不足であることを確認すること。患者の1.知る権利、2.拒否する権利、3.自発的同意、を大切にすることである。誤れる父権主義的(パターナリズム)にならないよう患者の気持ちをくみ取るようコミュニケーションには十分配慮する事である。説明しても患者は素人で十分理解されないからなどと考えないこと。インフォームドコンセントの判例として、医療行為にあたる医師は緊急を要し時間的余裕のないなどの特例がない限り、患者において当該治療行為を受けるかどうかを判断決定する前提として

  1. 患者の現症状とその原因
  2. 当該医療行為を採用する理由
  3. 治療行為の内容
  4. それによる危険性の程度
  5. それを行った場合の改善の見込み
  6. 改善の程度
  7. 当該医療行為をしない場合の予後等について出来るだけ具体的に説明する義務がある

という判例があることを念頭におくこと。

また、患者とのコミュニケーションのみでなく職員間のコミュニケーションを図ることも重要である。医療トラブルの30%は職員間のコミュニケーション不足で起こるという報告がある。上下関係のない人間関係、自由に発言・報告できる安全文化の醸成を忘れてはならない。

6.記録は正確かつ丁寧に経時的に記録する

診療に関する諸記録の正確な記載は、事故防止に役立つのみならず、万一事故が発生し訴訟になった場合の証拠は唯一記録のみであり、口頭弁論は何ら証拠となり得ないことを認識する。医療訴訟の確定で一番問題になるのは「診療録の不備」であり、ついで「チームワーク医療(連携)の悪さ」といわれている。記録は正確かつ丁寧に記載する習慣をつけることが重要である。

7.自己の健康管理と職場のチームワークを図る

医療従事者は、自己の肉体的・精神的健康管理に努める。アクシデント・インシデントの過半数が「見落とし」「見間違い」「思い込み」「取り違え」「勘違い」「確認不足」「注意力低下」などの注意散漫による「うっかりミス」いわゆるヒューマンファクターであり、その背景要因として個人の健康状態に問題があることがある。常に医療人であるという自覚をもって健康管理に努める。
医療トラブルの背景因子として「チームワークの悪さ」が目立つといわれている。チームワーク医療はコミュニケーションそのものである。職員間のコミュニケーションを図るよう努力されなければならない。問責にしない自由に発言できる上下関係のない環境こそがコミュニケーションを育て、チームワーク医療を育てることを認識すべきである。

8.院内患者相談窓口対応について

相談窓口などにおいて、医療安全対策に係る患者・家族の相談に適切に応じる。

  1. 患者・家族からの苦情・クレーム情報の分析と対策については積極的に参加し改善に努める
  2. 事故発生時の患者および家族への対応は必要に応じ医師をはじめ該当管理責任者と共に対応する。また、職員に対し適正な対応指導を行う
  3. 医療安全に役立てるべき事例や情報について把握し、医療安全管理委員会に報告し検討する

IV.医療事故発生時の対応

重大事故発生時は、「医療事故発生時の対応マニュアル」に詳細な手順を定めているが、次の点に注意して対応に当たる。
1.緊急時はすべての対応をチームで行い、以下の点に注意する
  1. 患者の治療を最優先とするが、主治医だけでなく医師緊急コールをするなど、チームで対応する
  2. リスクマネジャーに報告し、リスクマネジャーは現場に適切な指示を与えるとともに、各部門長およびリーダーリスクマネジャーへ報告する。
  3. 事実経過を記録する。(医師記録、看護記録)
  4. 医療事故に関する医療機器、医療器材、医薬品等は事故発生時の状態を保持し保存する。
  5. 患者および家族への説明は、なるべく上級医をまじえて、主治医がきちんと説明する。
  6. 事故当事者はなるべく現場から離し、また、同僚が付き添うなど一人にしないように配慮する。
2.事故発生後の外部への報告
  1. 重大事故で死亡するような事態が発生した場合には、緊急危機管理対策会議で検討する。
    医療側の過失が明らかな場合は、病院としての意思決定を得た後、速やかに富田林警察署へ届出を行なう。
  2. 医事行政機関への報告
    医療過誤により死亡もしくは永続的な高度な障害が発生した場合やその疑いがある場合は病院としての意思決定を得た後、必要に応じて以下の機関に報告する
    1. 富田林保健所
    2. 済生会支部および本部
  3. 重大事故の公表
    1. 重大な医療事故が発生した場合、保健所、警察署への届け出を終えたのち、医療機関自らがその医療事故の事実を正確かつ迅速に社会に対し積極的に公表していく必要がある。これは、医療が生命の尊厳と個人の尊厳の保持を基本理念としており、医療機関は一般に社会的公共性が高いと考えられるからである。公表に際しては意思統一を欠き、混乱を引き起こさないように、窓口を一本化する。十分な説明の上、公式見解を発表する。公表は、医療事故への対応に係る透明性の確保や、患者・家族および社会への誠実な対応は、より良い医療安全管理(リスクマネージメント)につながり、結果的に双方に良い結果をもたらすと考えられる。
    2. 患者・家族等のプライバシーの尊重
      医療事故を公表する場合は、患者や家族のプライバシーを最大限に尊重しなければならない。公表の前には、患者・家族と十分話し合い、ここまで公表しても良いという範囲を決めておく。また、事故当事者への十分な配慮も必要である。
3.事故の再発防止

医療事故発生後、出来るだけ早い段階で、医療事故管理委員会において、事故の再発防止について検討し、再発防止策を策定、マニュアル化し職員に周知徹底する。

V.医療安全管理(医療事故防止)のための職員の教育・研修

医療事故を防止するためには、医療従事者個人の資質・技能水準の向上を図ることが重要であることはいうまでもない。しかしながら、その向上を個人の努力のみに依拠するのではなく、組織全体として取り組んでいく姿勢が大切である。
1.職員に対する啓発
  1. 職員個人が日々自己啓発・質的向上に努めるとともに、組織として職員の能力を向上させるため、定期的・計画的に教育・研修の機会を設ける。
2.組織で取り組む研修
  1. 医療事故の事例(他施設での事例なども含む)を資料に研修を行う
  2. 研修は新規採用者研修・経年別に行う現任者研修と全体での研修を定期的、計画的に行う
  3. 医療機器について、関係スタッフ全員がその各機能についての操作マニュアルを十分熟知するよう研修・講習を行う
  4. 医療事故発生後の対応を迅速に行えるよう、常日頃から患者への緊急処置の訓練を行う
  5.  

VI.患者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針

  1. 本指針の閲覧
    本指針は、済生会富田林病院ホームページに掲載するものとし、また、患者、家族等から閲覧の求めがあった場合には、これに応じるものとする。
  2. 照会・閲覧窓口
    本指針についての照会および閲覧の窓口は医療安全管理室とする

VII.本指針の見直し、改正

  1. 医療安全管理委員会は、少なくとも毎年1回以上、本指針の見直しを議事として取り上げ検討する
  2. 本指針の改正は医療安全管理委員会の決定により行う

平成18年4月1日 承認
平成20年4月1日 改訂
平成22年7月1日 改訂
平成26年10月1日改訂